業務自動化
卸売の受発注を自動化する前に、注文を1本の台帳にまとめる話

「今日の分、まだ入ってませんか」
朝の9時前に、そう電話が鳴ります。受けた事務の方は、机の横のFAXの束をめくりながら「いま確認します」と答える。複合機のトレイには、まだ印刷の途中の注文書が重なったままです。
業務用の食品を扱う卸売の会社です。8時半を過ぎると、取引先の飲食店からの注文がまとまって届きます。FAXがいちばん多い。電話も鳴る。本部のあるチェーンからはメールで来ます。
入口が3つある会社では、注文はどこにも揃っていない
卸売の受発注で詰まっているのは、注文の量ではありません。注文がどこにも1つにまとまっていないことのほうです。
FAXはトレイ、電話は手書きのメモ、メールは担当者それぞれの受信箱。事務の方はその3つを順番に見ながら、販売管理システムに入力していきます。3つ全部を見た人の頭の中で、はじめて「今日の注文」が完成する。
台帳は、机の上ではなく人の頭の中にあります。
だからその人が休んだ日は、全体像を持っている人が社内にいなくなります。残った人は、トレイと受信箱とメモをもう一度ゼロから集めるところから始めることになる。
締めの時間が、会社の実力より先に決まってしまう
この形のままだと、受注の締め時刻は「事務が入力し切れる時間」で決まります。倉庫の能力でも、配送ルートの都合でもありません。
11時締めにしているのは、そこから積み込みと配車に回すためです。ところが10時50分に電話で入った追加が、入力に間に合わずに次便へ回る。取引先には「締めに間に合いませんでした」と伝えることになります。注文自体は届いていて、社内で追いつけなかっただけなのに。
「うちは締めが早いって、よう言われるんですわ」と社長に言われたことがあります。早いのは締めではなく、入力の手前で毎朝渋滞が起きているせいでした。
卸売の朝を、そのまま並べてみる
業務用食品の卸|取引先の飲食店からFAX・電話・メールで注文が届く会社(受注担当2名)の場合
これまで
台帳を1つ置いたあと
※ 取引先数や注文様式による一般的な例です。実際にどこが縮むかは、業務を拝見してからお見せします。
台帳の形を先に決める。道具を選ぶのはそのあと
卸売の会社で私たちが最初に見るのは、FAXの読み取り精度ではありません。販売管理システムに入る手前に、注文を受け止める台帳を1枚置けるかどうかです。
列は、受信日時、入口(FAX・電話・メール)、取引先、品番、数量、納品日、そして確認済みかどうか。この7つが並んでいれば、入口が何本あっても、注文は1本に見えます。自動化は、この台帳に行を立てる作業から順に置き換えていきます。読み取りも、メールの取り込みも、行き先が決まってはじめて意味が出てきます。
今の販売管理システムを入れ替える話ではありません。台帳は基幹の代わりではなく、基幹に入る前の受け皿として置きます。
正直に書くと、私たちも順番を間違えたことがあります。読み取りの仕組みを先に作って、出力先を既存のExcelの「当日分」シートにしました。翌朝には前日分が上書きされて、「昨日の注文、どこ行きました?」と聞かれる。台帳を置かずに自動化だけ足すと、速くなるのは入力だけで、探す仕事が増えます。FAXまわりの考え方はFAX注文の転記作業についての記事にも書きました。
電話の注文は、最後まで人が受けます
期待を持たせすぎない話も書いておきます。3つの入口のうち、電話はいちばん最後まで人が受ける部分です。
「いつものやつ、10ケース」で通じる関係が、卸の強みでもあるからです。そこを機械に置き換えるつもりはありません。変えるのは、受けたあとのほうです。メモ用紙に書いて後から入力するのをやめて、聞きながら台帳へ直接入れる。それだけで、突き合わせの工程がひとつ消えます。
「この品番、いま在庫ある?」という問い合わせも似た形です。答えられるのがベテラン1人という状態は、過去の対応を材料にして回答の下書きを出せるようにすると、だいぶ薄まります。最後に何と答えるかは、人が決めたままで構いません。
何を測るところから始めるか
ご相談をいただいたとき、最初にお願いするのはツールの選定ではありません。一週間だけ、入口ごとの注文件数、締めのあとに入った注文の件数、入力の手直しが出た件数の3つをメモしてもらいます。
この3つが出ると、たいていの会社で同じことが見えます。件数がいちばん多い入口と、手直しがいちばん多い入口は、だいたい別です。どちらから手を付けるかは、そこで決まります。
研修をご希望の場合も同じ考え方でやっています。全員を集めて一律の座学をするより、受注に関わる方に、自社の注文書と自社の品番で触ってもらったほうが、あとに残ります。
締めの時刻は、動かせる
11時締めは、社内の事情です。取引先から見れば「11時までに言えばいい」という約束でしかありません。
入力の手前で渋滞しなくなれば、その約束のほうを動かせます。締めを30分うしろにずらせるかどうかは、値段の話をしないで済む営業の材料になります。同業と並んだとき、そこで選ばれることは珍しくありません。
注文が3つの入口から来ること自体は、変えなくていいと思っています。相手のやりやすい方法で頼めるのは、卸の強みだからです。もったいないのは、その強みを受け止めるために、事務所の側が毎朝3回、同じ確認をしていることのほうです。
入口は3つのままでいい。台帳が1つなら。
よくある質問
Q. 卸売の受発注を自動化するには、何から手を付ければいいですか?
ツールの選定より先に、注文を受け止める受注台帳を1つ置くところからです。受信日時・入口・取引先・品番・数量・納品日・確認済みかどうかの7項目があれば、FAX・電話・メールと入口が分かれていても1本に見えます。自動化は、その台帳に行を立てる作業から順に置き換えていきます。
Q. 電話で入る注文も自動化できますか?
電話は3つの入口のうち、最後まで人が受ける部分です。「いつものやつを10ケース」で通じる関係は卸売の強みなので、そこを機械に置き換える話にはしません。変えるのは受けたあとで、メモ用紙に書いて後から入力するのをやめ、受けながら台帳へ直接入れる形にすると、突き合わせの工程が1つ減ります。
Q. 今使っている販売管理システムは、入れ替えが必要ですか?
入れ替えは前提にしません。今の基幹システムやExcelはそのまま使い、その手前にある手作業(FAXの読み取りと転記、3つの入口の突き合わせ)を減らす形で組みます。台帳は基幹システムの代わりではなく、基幹に入る前の受け皿として置きます。
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