業務自動化
大阪の製造業のAI導入、見積もりが社長しかできない会社の話

「その見積、社長さんしか出されへんのですか」
事務の方にそう聞いたとき、返ってきたのは、はいでもいいえでもありませんでした。「社長が現場に出てはる日は、お客さんに待ってもらってます」。
大阪の東部にある金属加工の工場です。図面つきの見積依頼が、毎朝FAXとメールで届く。それが社長のデスクに積まれていきます。
見積が一人のところで止まる工場は、たいてい忙しい
中小の製造業では、見積を出せる人が社長か、長くいる番頭格の一人に限られていることがよくあります。図面を見て、材料の相場を思い出し、段取りと加工時間を頭の中で組んで、そこに客先ごとの事情を足す。本人の中では数分で終わるので、まわりからは何も問題がないように見えます。
詰まるのは、その人が工場や客先に出ている時間のほうです。
依頼が重なった日は、回答が翌日にずれます。急ぎの客は、待たずに別の会社に投げる。それは失注として記録に残らないので、社内には「うちは忙しい」という感覚だけが積み上がっていきます。
「勘」と呼ばれているものを、いちど分けてみる
AIをどこに置くかを決める前に、その数分の中身を分けます。だいたい、4つに分かれます。
- 材料費の計算。単価と重量、歩留まりの掛け算で、答えが決まっている部分
- 加工時間の見当。過去に似た仕事を何時間でやったか、という記憶の引き出し
- 客先ごとの調整。付き合いの長さ、次の案件の見込み、前に無理を聞いた借りがあるかどうか
- 最後に数字を決める判断。この仕事を、いま、いくらで取るのか
前の2つは、材料単価と過去の実績が手元にあれば再現できます。あとの2つは社長の中にしかありません。
この4つを混ぜたまま「見積もりをAIで自動化しませんか」と持ちかけられたら、たいていの社長は反射的に断ります。当然だと思います。自分の判断ごと機械に渡せと言われているように聞こえるからです。
見積依頼が来てから返すまでを、並べてみる
大阪府内・金属加工|図面つきの見積依頼が1日3〜5件届く工場の場合
これまで
AIを挟んだあと
※ 依頼件数や過去見積の残り方による一般的な例です。実際にどこが縮むかは、業務を拝見してからお見せします。
いちばん効くのは、過去の見積がどう残っているか
製造業の会社で私たちが最初に見るのは、ツールではありません。過去の見積書が、どこに、どんな形で残っているかです。年度ごとに分かれたExcel、送信済みのPDF、紙のファイル。同じ会社の中で三通り混ざっていることも珍しくありません。
ここがAIに渡せる形かどうかで、最初の一手が変わります。過去の実績をすぐ引ける会社なら、下書きの精度は最初から実用に近づきます。残っていない会社なら、これから出す見積が溜まっていく形を先に作るところから始めます。
正直に書くと、私たちも順番を間違えたことがあります。過去データの整理を後回しにして、下書きを生成する仕組みだけ先に用意しました。出てくる下書きが的外れで、社長が結局ゼロから書き直す。ふた月と経たずに使われなくなりました。道具の出来ではなく、渡した材料の問題です。
図面が紙でも、話は止まらない
「うちは図面が紙やしFAXやから、そういうのは無理やろ」と、ほぼ毎回言われます。
スキャンした図面から材質・寸法・数量を拾うところは、以前よりだいぶ現実的になりました。ただ、全部を自動で通そうとすると、読み違いに誰も気づかないまま見積が出ていきます。読み取った結果を人が数秒で確認できる画面をひとつ挟む。それだけで、事故の大半は止まります。FAXまわりの考え方はFAX注文の転記作業についての記事にも書きました。
最初にやるのは、社長の見積時間を測ること
ご相談をいただいたとき、私たちが最初にお願いするのはツールの選定ではありません。一週間だけ、見積依頼が届いた日時と返した日時、そして社長がその1件に実際に触った時間をメモしてもらいます。
これをやると、たいていの工場で同じことが見えます。社長が手を動かしている時間そのものは、そんなに長くない。長いのは、依頼がデスクで順番を待っている時間のほうです。だとすれば、削りにいくのは社長の作業速度ではなく、待ち時間を生んでいる段取りのほうになります。
研修も同じ考え方でやっています。全員を集めて一律の座学をするより、見積に関わる社長と事務の方に、自社の図面と自社の過去見積で触ってもらったほうが、あとに残ります。
社長から見積を取り上げる話ではない
この仕組みで変わるのは、社長の一日の使い方です。材料費の計算と過去実績の引き当てが先に済んでいれば、社長が向き合うのは、いくらで受けるかという判断だけになります。
見積もりが社長にしかできないこと自体は、悪いことではないと思っています。その会社の強みが、そこに溜まっているということでもあるからです。もったいないのは、強みを使う手前の段取りにまで、社長の時間が持っていかれていることのほうです。
段取りのほうは、渡せます。
よくある質問
Q. 製造業の見積もり業務は、AIでどこまで自動化できますか?
見積もりの「勘」を分けると、材料費の計算と、過去の類似案件から加工時間の見当をつける部分はAIに渡せます。一方、客先ごとの調整と、いくらで受けるかという最後の判断は社長の中にしかありません。AIが下書きを作り、社長は単価と条件だけ直す形が現実的です。
Q. AIを挟むと、見積もりの回答はどれくらい早くなりますか?
記事中の例(図面つきの見積依頼が1日3〜5件届く金属加工の工場)では、回答まで中1日かかっていたものが、当日に返せる日が増える形に変わります。社長の作業も1件あたり10〜15分の夜の作業から、下書きの単価と条件だけ直す2〜3分になります。依頼件数や過去見積の残り方による一般的な例です。
Q. 図面が紙やFAXでも、見積もりのAI活用はできますか?
できます。スキャンした図面から材質・寸法・数量を拾うところは、以前よりだいぶ現実的になりました。ただし全部を自動で通すと読み違いに誰も気づかないまま見積が出ていくため、読み取った結果を人が数秒で確認できる画面をひとつ挟む設計にします。
営業とAI導入のご相談は、初回無料で承っています。
御社の状況を伺い、最適な進め方をご提案します。
